ARTICLE記事一覧

ユニフィットの社員が、担当プロジェクトの広告実績を紹介したり、日々感じていることなどを書き綴っています。またマーケッターが市場の動向を切り裂くフリーペーパー『MAiL』や世の中の(生活者の)トレンドやニーズ、価値観を把握し、広告制作へ反映するために行っている定量調査の分析も公開しています。

2024-05-22 MAiL 不動産

「マンションの価格高騰はエリアによる」←本当に?と思った件

ニュースメディアも多様化する中で、
不動産のコンテンツもあらゆる媒体で散見されるようになった。
その中で昨今公開されたコンテンツに
「都内のマンション価格高騰はエリアによる」という主張があった。
本当にこの主張は正しいのかデータを具体的に示して確かめていく。

本記事を執筆までの経緯

2024年4月度にYouTubeで不動産にまつわるコンテンツが UPされており、視聴したところそのコンテンツ内でこのような主張がされていた。「都内の新築マンション価格の高騰は全体的には合っているが、エリア1つ1つを見ると価格が落ちているエリアもあり、どこも高騰しているわけではない」。実際にその場でデータを見せながら世間的にニュースになっていることは全てのエリアに当てはまる事ではないと主張していた。ただその瞬間に筆者の中で「この主張は正しいのだろうか」という疑問が生まれた。というのも筆者自身も新築マンションの市場調査を約5年間担当してきたが、 同じ駅圏・ 駅距離や供給面積帯が同等である場合に前年よりも安く供給されている事例をあまり見たことがなかったからだ。そのため実際にデータを調べて検証することにした。

実際にデータを比べてみる

まずは動画内での主張に使用していたデータが正しいのか否かを確かめていきたい。動画内の主張としては都心の価格は高騰しているものの、渋谷区や墨田区など一部のエリアではむしろ価格が下落しているエリアもあるため高騰は一概には言えないというものだった。

グラフ①は動画内でエビデンスとして出していたデータ、グラフ②はSaaS型マンションマーケティングシステムのRealnetマンションサマリを利用して筆者が調査したデータだ。確かにソース元の違いによる数字の差はあるが、渋谷区や墨田区は前年より価格が下落している。とするとYouTube動画内の主張と近しいデータであり、主張は正しいように思える。しかしここには1つのからくりがある。
※ちなみに数字に大きな違いがある 2023年の港区では三田ガーデンヒルズが700戸超を平均坪単価は@1,328万円で、ワールドタワーレジデンスが280 戸超を平均@1,144万円で当時期に供給しており、この物件をどれだけデータ内に含んでいるかどうかで大きく違いが出たのだと考えられる。

データの裏側にある背景

そのからくりを紐解くために渋谷区・墨田区データの平均坪単価を形成している新築マンションの一覧を見ていきたい。 (表③※戸数=総戸数・坪単価=当時期に供給した住戸の平均坪単価)

渋谷区で見ていくと、行政区全体を大きく左右しているのは「パークコートタワー神宮北参道ザタワー」の存在だ。駅1分のタワーマンションだけに高単価であり、戸数も多い分行政区全体に影響を及ぼしている。すなわちその販売が終了した2023年は行政区全体の価格が下がったのだと考えられる。また同じ駅圏の「オープンレジデンシア恵比寿コート」と「プライムスタイル広尾」、或いは「ピアース渋谷本町レジデンス」と「パークホームズ初台一丁目」を比較すると両者2023年度の方が高単価だ。

墨田区についてはそもそも供給数が非常に少なく2022年はJR沿線のみの供給だったが、2023年では墨田区の中でも都心から離れた東武伊勢崎線沿いの区内でも低単価エリアの供給が影響し、行政区全体でも下落する結果となったのだ。また行政区内でエリアの近しい「クレヴィア両国国技館通り」と比較して翌年の「ルジェンテ両国」の方が低単価だが、クレヴィア=JR両国から2分、ルジェンテは地下鉄両国から4分(JRからは11分)と立地条件がクレヴィアに優位性があったため前年のクレヴィアの方が高単価であると説明できる。同じく地下鉄最寄りの「オーベルアーバンツ両国」と「ルジェンテ両国」を比較すると後者の方が高単価だ。

動画メディア内の主張は嘘なのか

上のことからわかるように、新築マンションというもの自体同じ行政区内で同年に何件も供給されるわけではない。すなわち1つの物件が行政区全体に及ぼす影響は大きく、前年と比較して供給されたエリアが駅遠や区内でもメジャーな路線から離れた駅圏に供給されれば不動産価格が高騰する市況にあっても行政区全体の価格は下落する結果となることもあるのだ。特にこの傾向は都心3区になると供給数は少ないため顕著で、一等地に高単価・大規模物件が1件でも供給されれば行政区全体の平均価格は大きく上がり、逆に供給されないと一気に下落する結果となる。すなわち行政区によっては前年より価格が下落しているエリアがあるのは事実だが、その行政区内で供給された物件条件に違いがあるだけで同じような条件なら価格は高騰しているというのが筆者の主張だ。

ではYouTube動画内で話された内容は結果的に嘘であったということなのか。これに関しては否である。データとして特に嘘をついているわけではなく、あくまで行政区単位の話をしているからだ。また動画内で上記のように主張していた専門家はこのデータの実情を知らないまま主張していたかというとこれも可能性はかなり低い。専門家はこの業界に何年も従事しており大手不動産サイトの運営会社グループの方であったため知らないということはないだろう。ただ問題なのはこの動画の視聴者がとある行政区の物件はどこも前年より低価格で購入できる、という認識になってしまうことだ。すなわち重要なのは視聴者があくまでYouTubeの企画というのはエンタメであることを理解し、発言を鵜呑みにするのではなく参考にする動画としてリテラシーを高めていく必要があるということだ。

MAiL6月号 PDFはこちら

CATEGORY

TAG

WRITER

名前

この記事を書いた人

マーケッター

大山恭平

関連記事

一覧に戻る

このサイトでは、アクセス状況の把握や広告配信などのために、Cookie(クッキー)を使用しています。このバナーを閉じるか、閲覧を継続することでCookieの使用に同意するものとします。
詳細はコチラ詳細はコチラ

OK