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NEW木造マンションが もたらす、 脱炭素社会の実現。
林野庁が期待する 木造マンションの役割とは
今はまだ、聴きなじみのない「木造マンション」という言葉。2021年12月に大手不動産ポータルサイト各社が共同で掲載ルールを改正したことで、徐々に目に付くようになったのだが、木造マンションが普及することによって、日本の森林・環境問題にもたらす役割や、脱炭素社会の実現について本記事で紐解いていく。
日本における森林・環境問題とは?
日本の森林面積は、1966年~2017年の約50年間でほぼ横ばいで推移しており、国土の約3分の2が森林となっている。世界規模では森林面積の減少が深刻な問題となっているが、日本では事情が異なるようだ。日本の森林の約4割が人工林であり、戦後直後に造林された樹木の半数が樹齢50年を超え、本格的な伐期を迎えている。(資料①)一方、1966年~2017年の約50年間の森林蓄積は約3倍に増加している。(資料②)
このように、日本の森林資源は充実しているように思えるが、森林面積は横ばいで森林蓄積だけが増加している背景には、安価な外材の輸入に偏り、国内での森林伐採が減少し、活用できるはずの森林資源を活用できていない現状があると言える。また、計画的な森林伐採が行われなければ、様々な環境問題を引き起こす要因にもなり得る。その1つに地球温暖化防止機能の低下が挙げられる。森林は二酸化炭素を吸収し、酸素を排出する機能を有するが、成熟した樹木は二酸化炭素の吸収量が減少するため、適齢期を向かえた樹木を伐採し、植林を行わななければ森林の役割である地球温暖化防止機能が低下するのだ。もう1つ直面している問題として、近年の土砂災害が挙げられる。伐期を迎え、放置された森林は土壌にも悪影響を与え、山の保水力低下を招き、土砂崩れのリスクや河川の氾濫を引き起こす原因の1つとして考えられているのだ。
木造マンションが果たす役割とは?
現在、世界的に最も関心の高いSDGsという大きな流れの中で、日本では脱炭素社会の実現のために木造建築物への関心が高まり、日本政府は公共建築物における木材の利用を推進することで公共建築物の床面積における木造率増加を図っている。一方で、民間建築物の木造率は低位にとどまっていることから、2020年に「脱炭素社会の実現に質する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を策定し、民間建築物まで普及することを目指している。そして、建築基準法においても耐火構造の基準を満たすことで、木造であっても「耐火構造を備えた建物」として認められるよう、法整備を行い、木造の中高層建築物を可能とすることで民間建築物にも木材の利用を促した。そして今、各ゼネコンや住宅事業者が木造の中高層マンションやオフィスビルなどの計画を進めている。
ここで改めて、木造マンションの定義を明確にしておきたい。まず建築要素として、構造躯体や壁、床などに木材を使用した中高層建築物であり、CLTやJAS規格に基づいた耐火集成材の利用、木造とRC造を組み合わせたハイブリッド構造が一般的とされている。また、3階建て以上の共同住宅であり、住宅性能評価書の取得、劣化対策および耐震等級が等級3、そして、耐火等級が等級4もしくは耐火構造でなければ「木造マンション」と名乗れないのである。現状はまだ発展途上の木造マンションだが、脱炭素社会の実現にどのような役割を果たせるのだろうか。その可能性の1つに温室効果ガスの削減効果だと言われている。建築を行う際に発生するCO2の排出量は、鉄骨やRC造と比較すると木造は圧倒的に少なく、また、建築物に使用される木材が吸収したCO2を固定化できることが挙げられる。
2021年11月に竣工した三井ホームが手掛ける東京都稲城市の木造賃貸マンション「MOCXION (モクシオン)」の実績値によれば、建設時によるCO2の排出量は、同規模の鉄骨・RC造マンションと比較した場合、約40%以上の削減を可能とし、建築物に使用された木材の炭素貯蔵量は、樹齢35年の杉の木2,953本相当であると算出している。このように、大規模建築物によるCO2削減効果は脱炭素社会の実現に大きく貢献できると言えるだろう。また、施工主の側面から見ても大きなメリットが期待されている。それは構造が木材というだけあって、鉄骨やRC造と比較すると建築物の総重量が軽量化され、地盤面に対する制限緩和が見込まれることで、地盤改良費のコスト削減や工期の短縮を可能とする他、これまで建築困難であった地盤条件の土地においても建築できる可能性を秘めているからだ。
木造マンションの現状と課題
現実は甘くないようだ。日本における2022年度建築着工床面積の木造率は全体の約45.5%であるが、4階建て以上の中高層建築物に絞ると1%以下と低い状況にある。このように建築用木材の需要は低層住宅分野が大半を占めているが、最も普及している木造軸組工法の住宅における国産材の使用割合は5割程度に留まり、国産材の促進が課題となっている。更に人口減少等に伴う、低層住宅着工戸数が長期的には減少する可能性が高まっていることから、国産材の促進に障壁となることが予想される。だからこそ、中高層建築物の木造化・木質化が重要であり、新たな木材需要を創出し、国産材の促進に繋げなければならない。
では、木造マンションが普及するためにはどのような課題があるのだろうか。まず挙げられるのが、国内における製材の調達面である。耐火建築物とする上で必須となるJAS規格の構造材を供給できる製材工場が充分ではなく、供給の安定化が課題の1つであり、コスト面でも不安が残る。また、木材を現しで使用することが難しく内装への制限があるため、木造でありながら「木の質感」を楽しめないことも、今後の技術発展に期待したいところだ。そして、建築主やエンドユーザーが環境問題への貢献意識を高め、積極的に木造マンションを選択するようになるためには、まだまだ時間を必要とするだろう。天然資源が乏しい日本において、国土の7割を森林で占める先進国では有数の森林大国であり、これを生かした民間建築物が主流になる未来に期待したい。